「崩壊の時代の芸術体験 – Art Experience in the Age of Collapse」コース

Series 3. 異なる未来を創造する

Using Art to Make Different Futures

Series.3 では、「崩壊の時代」においてアートがどのように具体的な実践(プラクシス[Praxis])やテクニックとして紹介されてきたか、そして、新しい生き方のヒントになり得るかを共有します。中世ヨーロッパやチベットにおける芸術と死の関係性、ジョン・ラスキンの活動から見るアートと有用性の歴史、また、最新の脳科学と美術鑑賞の研究について考察します。さらに、2016年頃から主にイギリスで議論されてきた「サイケデリック社会主義」や日常の中で私たちが持ちうる主体的な抵抗、「トリックスター」と呼ばれる神話や物語の中の存在、ユングの元型論などを通じて、さまざまなオルタナティヴな生き方を紹介しながらアートの可能性を考えていきます。このように、芸術の歴史や具体的な考えから、もう一つの生き方についてのヒントがたくさん見えてきます。これからのアクションや実践に向けて学びを深めるシリーズです。

*本コースは、シリーズ1からの視聴をおすすめしますが、シリーズの順番に関わらず、興味・関心のあるテーマからお申し込みいただけます。

 

レクチャータイトル

①アートと有用性:ジョンラスキンから今、学べること  
②芸術の影響:神経美学、ガレーゼとヴァールブルク 
③よく死ぬためのアート 
④「エコロジーになる」:サンラとウィリアムバロウズ 
⑤21世紀の政治とカウンターカルチャーの精神修行
⑥日常を生きるためのペテン師の戦術

 

インストラクター:ロジャー・マクドナルド(TASプログラム・ディレクター / フェンバーガーハウス館長)
レクチャー数:6 [ 各20 - 30分 ]
使用言語:日本語

アートと有用性:ジョンラスキンから今、学べること

19世紀のイギリスには、アートを生活や労働と関連付けようとした思想家ジョン・ラスキンという人物がいました。社会的有用性とアートはどのような関係があるのでしょうか。ウィリアム・モリスが主導したことで知られるアーツ・アンド・クラフツ運動で、ラスキンは実験的な活動を展開しました。また、このような考えは日本にも影響をもたらし、大正時代に広まった「民衆芸術論」、そして「白樺派」やマクドナルドが住む長野県佐久地域での芸術と民主化運動などにもその痕跡がみられます。こうした実践から、アートが社会における「道具」のようなものとして考えられるのではないか、また、これまで美術史に描かれてきた王道の歴史とは異なるオルタナティヴな可能性が考えられるのではないでしょうか

時間:27分47秒

芸術の影響:神経美学、ガレーゼとヴァールブルク

神経美学(neuroaesthetics)は、脳の働きと美学的経験(美醜、感動、崇高など)や、脳の機能と芸術的活動(作品の知覚・認知、芸術的創造性、美術批評など)との関係性を研究する分野です。1980年代に行われた神経美学の研究を紹介し、イメージと私たちの意識や感情がどのように関係しているかについて考えます。近年、絵画は私たちが想像するよりも肉体や脳に大きな影響を与えていることが明らかになっています。このような研究と美術鑑賞体験はどのように関係しているのでしょうか。ドイツの美術史家アビ・ヴァールブルクの先駆的な分類や、スイスの心理学者カール・ユングが提唱した「元型(アーキタイプ)」についても考えます。

時間:19分17秒

よく死ぬためのアート

15世紀のイタリアでは、イエス・キリストや聖母マリアを描いた絵画が死刑囚に向けて展示され、死を迎えるその瞬間まで「見る」イメージとして、アートが存在していました。こうしたヨーロッパの事例と同時に、チベットでは臨終間際の人々の枕元で読み聞かせられるという『死者の書』が存在します。アートはどのような形で「死」の瞬間と関係があるのでしょうか。現在、オランダの財団が実践している「エンド・オブ・ライフ」とアート鑑賞についての事例も紹介しながら、これからの時代において美術館が「コレクティブ」なホスピス的空間になっていくことについても提案します。

時間:23分16秒

「エコロジーになる」:サンラとウィリアムバロウズ

今や「芸術」は人間にとって、自由を奪回したり、何かを解放する力強いツールやハックのひとつといえます。規律や管理で溢れる社会から一瞬でも逃れ、別の生き方や可能性を探る有効なエネルギーとしてアートを捉えた二人、サン・ラとウィリアム・バロウズについて紹介します。共同的なジャズや宇宙的創造性を追求したサン・ラ、そして独創的な「抵抗」の考え方を実践した作家ウィリアム・バロウズ。彼らの活動から見えてくるアートの革命的な「エコロジー作り」を考えます

時間:31分02秒

21世紀の政治とカウンターカルチャーの精神修行

2016年頃から主にイギリスの理論家たちの間では「サイケデリック社会主義」という考えが盛り上がりをみせました。特に、1960年代のカウンターカルチャーによる意識の拡張や精神を高めるサイケデリック運動と意識変容、そこから学べることや社会変革の関係性、そして、21世紀におけるラディカルな政治の可能性は何でしょうか。新たな世界を考え実践していく上で、もう一度、瞑想やヨガ等の古典的な精神修行のテクニックが本来持っている、単なるリラックスや自分探しだけではない、ラディカルな可能性について考えます。

時間:32分20

日常を生きるためのペテン師の戦術

神話や民間伝承の物語に登場する、「ペテン師」や「トリックスター」と呼ばれる、ちょっとした悪戯をする存在が、いかにアートと近い関係にあるかを考えます。また、フランスの哲学者ミシェル・ド・セルトー著『日常的実践のポイエティーク』より、苦しい状況を生きた無名の人々の戦術(技芸)を紹介しながら、私たちが暮らす社会のルールに対して、イライラせず、簡単に、楽しくジャッジしていけるポイントを紹介します。多くの文化に存在する「トリックスター」は、権力や日常生活を「ほぐす」要素としての大切な役割も果たしており、アートの社会的な可能性を考える上では重要な観点ともいえるのではないでしょうか。

時間:26分57

料金プラン・お申し込み

レクチャー数:6
参考文献リスト付き

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インストラクター

ロジャー・マクドナルド

TASプログラム・ディレクター / フェンバーガーハウス館長

 

東京生まれ。幼少期からイギリスで教育を受ける。大学では国際政治学を専攻し、欧州平和大学(European University Center for Peace Studies)に留学。カンタベリー・ケント大学大学院(University of Kent)にて神秘宗教学(禅やサイケデリック文化研究)を専攻、博士課程では『アウトサイダー・アート』(1972年)の執筆者ロジャー・カーディナルに師事し近代美術史と神秘主義を学ぶ。1990年代後半、「神勝寺国際禅道場」(広島県)での禅修行やシャーマニズムの研究者テレンス・マッケナのワークショップ(ロンドン)に参加。1998年帰国後、インディペンデント・キュレーターとして活動。初めて手がけた企画は、山梨県清里にて、森の中に大きな穴を掘りアーティストたちの作品を埋めて、開催中に発掘する展覧会を開催。横浜トリエンナーレ2001」アシスタント・キュレーター、第一回「シンガポール・ビエンナーレ 2006」キュレーター、2017年にはアウトサイダーアートの大規模展「日本財団DIVERSITY IN THE ARTS 企画展ミュージアム・オブ・トゥギャザー」(スパイラルガーデン、東京)のキュレーションを担当するほか、2000年から2013年まで国内外の美術大学にて非常勤講師として教鞭をとる。2010年長野県佐久市に移住後、2014年に「フェンバーガーハウス」をオープン、館長を務める。2016年、観察実践集団「第3の鳥結社」の活動に参加、国際会議(アメリカ、ブラジル)に出席。2018年夏、カウンターカルチャーの聖地エサレン(Esalen、アメリカ西海岸)にてアーティストのアンナ・ハルプリンによるワークショップに参加。2018年から気候危機に関する研究を始める。2019年、望月地域にて市民運動グループ「MOACA」設立。気候危機や「適応」に関するレクチャーとディスカッションを開催。2021年UBIA「宇宙美術アカデミー」をスタート。ホールフードプラントベースの食事法を取り入れたカフェや量り売りショップ、スペースミュージッククラブほか「市民回復センター」を主催。AITでは、設立メンバーの一人として、現代アートの学校MADやTASのプログラムディレクションなどを担当。2022年に『DEEP LOOKING(ディープ・ルッキング)想像力を蘇らせる深い観察のガイド』を出版し、吉本ばなな氏、坂口恭平氏をはじめとする多くの表現者、読者、書店から大きな反響を得る。雑誌POPEYEによるPOPEYE Webでは2021年より「ラディカル・ローカリズム」を連載。美術手帖が運営するアートポータルサイトでは、気候危機とアートについての連載記事シリーズ「Art and Climate NOW」を掲載中。

サンプルレクチャー|Sample Lectures

サンプル Lecture 1「アートと有用性:ジョンラスキンから今、学べること(1分52秒)

 

サンプル Lecture 5「21世紀の政治とカウンターカルチャーの精神修行」(2分30秒)