「崩壊の時代の芸術体験 – Art Experience in the Age of Collapse」コース

Series 2. 宇宙意識から生まれるアートと鑑賞体験

Art in Cosmic Consciousness and Viewing Experience

Series.2では「宇宙意識」から芸術体験を考えます。「宇宙意識」とは、1901年にカナダの心理学者リチャード・モーリス・バックが出版した研究のタイトルでもあり、日常の意識状態が変性することを指します。今回はまず、古典インドと中国の美学を紹介し、芸術体験と「宇宙意識」の実践について考察します。次にアメリカの哲学者ジョン・デューイの美学論を紹介し、後半は、15世紀の画家フラ・アンジェリコの作品、2000年代にブライアン・イーノが提唱した「市民回復センター」、そしてインストラクターのロジャーがこの数年研究してきた「ディープ・ルッキング」という観察方法について解説します。共通するテーマは、芸術体験がいかに人間の意識状態を変えていくか、また、そこから生まれてくる新たな倫理観や生き方について思考を深めます。

*本コースは、シリーズ1からの視聴をおすすめしますが、シリーズの順番に関わらず、興味・関心のあるテーマからお申し込みいただけます。

 

レクチャータイトル

①ラサ:ヨガとインド古典美学  
②山でさまよう:中国古典美学 
③芸術と体験:ジョン・デューイ 
④ディープ・ルッキング 
⑤フラ・アンジェリコ:受胎告知の謎
⑥「身をまかす」ための空間:市民回復センター

 

インストラクター:ロジャー・マクドナルド(TASプログラム・ディレクター / フェンバーガーハウス館長)
レクチャー数:6 [ 各20 - 30分 ]
使用言語:日本語

ラサ:ヨガとインド古典美学

インド古典美学から、芸術の有用性と精神性を考えます。特に「ヴェーダーンタ」思想がもとになった「ラサ」という考えを探り、芸術作品が鑑賞者の身体と心に直接影響する仕組みについてお話しします。アート体験は、強烈な感情体験でもあります。美術史ではヨーロッパ美学にフォーカスしがちですが、ここでは、インド美学のもう一つの優れたアプローチについて学びます。

時間:20分06秒

山でさまよう:中国古典美学

中国古典美学と中国の思想家である荘子(そうし)の視点から、芸術体験を考えます。特に、芸術体験は美しさを感じることだけではなく、精神的な超越体験であることに迫ります。中国宋時代の風景画にスポットをあて、また、研究者ミランダ・ショーによる論文を参照しながら、山水画と神秘体験や仏教の関係性について考えます。

時間:35分35秒

芸術と体験:ジョン・デューイ

ドイツ理想主義の美学とは異なる考え方を広く提示した、アメリカの哲学者ジョン・デューイの思想を通して、芸術と生活の関係を考えます。デューイは、アートはただ「観察する」ものだけではなく、いかに私たちの生活体験に深く介入できるかを語りました。最終的に、芸術は人間を変革する「強烈なエネルギー」として捉えることができるといいます。崩壊の時代において、あらためて芸術文化の意味や役割を考える上で、こうしたデューイのアプローチは非常に参考になるでしょう。

時間:16分01秒

ディープ・ルッキング

近年、特にインターネットの発達とともに私たちの観察力や集中力は大きく衰えてきたとも言えるでしょう。このように考えると、時代の変化に伴い、私たちの生活だけではなく、アート体験の質も大きく変わってきたといえるでしょう。そして再び、私たちはどのように観察力を鍛え「みる力」をつけていけるのでしょうか。セザンヌやアグネス・マーティンのようなアーティストからヒントを探り、ディープ・ルッキングの重要性に迫ります。

時間:30分48秒

フラ・アンジェリコ:受胎告知の謎

15世紀半ばに描かれたフラ・アンジェリコの受胎告知をケース・スタディーとして鑑賞し「みること」の不思議さや不完全さについて考えます。特に、フランスの思想家ジョルジュ・ディディ=ユベルマンの分析を参照しながら、絵画の限界と「知識を手放す」体験について追求します。崩壊の時代において、芸術体験の重要な要素のひとつは「想像に降伏すること」だと思います。

時間:2440

「身をまかす」ための空間:市民回復センター

これからの時代には、どのような美術館やアートスペース、公共芸術空間が必要になるのでしょうか。これらを追求した先例のひとつに、ブライアン・イーノが提案した「市民回復センター」があります。私の住む長野県佐久地域のコミュニティーでも、芸術の有用性とコレクティブヒーリングの要素を融合した総合芸術スペースが、2年前から実践されています。私たちはどのように支え合いながら、芸術を通してほんの少しの「身をゆだねる|surrender」ができるのでしょうか。こうした体験から生まれる精神やコミュニティーの回復の可能性を探ります。

時間:27分18

料金プラン・お申し込み

レクチャー数:6
参考文献リスト付き

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インストラクター

ロジャー・マクドナルド

TASプログラム・ディレクター / フェンバーガーハウス館長

 

東京生まれ。幼少期からイギリスで教育を受ける。大学では国際政治学を専攻し、欧州平和大学(European University Center for Peace Studies)に留学。カンタベリー・ケント大学大学院(University of Kent)にて神秘宗教学(禅やサイケデリック文化研究)を専攻、博士課程では『アウトサイダー・アート』(1972年)の執筆者ロジャー・カーディナルに師事し近代美術史と神秘主義を学ぶ。1990年代後半、「神勝寺国際禅道場」(広島県)での禅修行やシャーマニズムの研究者テレンス・マッケナのワークショップ(ロンドン)に参加。1998年帰国後、インディペンデント・キュレーターとして活動。初めて手がけた企画は、山梨県清里にて、森の中に大きな穴を掘りアーティストたちの作品を埋めて、開催中に発掘する展覧会を開催。横浜トリエンナーレ2001」アシスタント・キュレーター、第一回「シンガポール・ビエンナーレ 2006」キュレーター、2017年にはアウトサイダーアートの大規模展「日本財団DIVERSITY IN THE ARTS 企画展ミュージアム・オブ・トゥギャザー」(スパイラルガーデン、東京)のキュレーションを担当するほか、2000年から2013年まで国内外の美術大学にて非常勤講師として教鞭をとる。2010年長野県佐久市に移住後、2014年に「フェンバーガーハウス」をオープン、館長を務める。2016年、観察実践集団「第3の鳥結社」の活動に参加、国際会議(アメリカ、ブラジル)に出席。2018年夏、カウンターカルチャーの聖地エサレン(Esalen、アメリカ西海岸)にてアーティストのアンナ・ハルプリンによるワークショップに参加。2018年から気候危機に関する研究を始める。2019年、望月地域にて市民運動グループ「MOACA」設立。気候危機や「適応」に関するレクチャーとディスカッションを開催。2021年UBIA「宇宙美術アカデミー」をスタート。ホールフードプラントベースの食事法を取り入れたカフェや量り売りショップ、スペースミュージッククラブほか「市民回復センター」を主催。AITでは、設立メンバーの一人として、現代アートの学校MADやTASのプログラムディレクションなどを担当。2022年に『DEEP LOOKING(ディープ・ルッキング)想像力を蘇らせる深い観察のガイド』を出版し、吉本ばなな氏、坂口恭平氏をはじめとする多くの表現者、読者、書店から大きな反響を得る。雑誌POPEYEによるPOPEYE Webでは2021年より「ラディカル・ローカリズム」を連載。美術手帖が運営するアートポータルサイトでは、気候危機とアートについての連載記事シリーズ「Art and Climate NOW」を掲載中。

サンプルレクチャー|Sample Lectures

サンプル Lecture 1「ラサ:ヨガとインド古典美学」(3:06秒)

 

サンプル Lecture 6「身をまかす」ための空間:市民回復センター(3:21秒)