「崩壊の時代の芸術体験 – Art Experience in the Age of Collapse」コース
Series 4. 世界の再生と喜びを促すアートスペース – Spaces of Collective Regeneration & Joy
「崩壊の時代における芸術体験」シリーズ最終回となる第4回では、これまで見てきたさまざまな理論や実践を踏まえ、アート運動や体験が具体的にどのようにつくられるかに焦点を当てます。
「集団的喜び」や「トータルアート(総合芸術)」といった概念を起点に考えると、これからの時代にはどのようなアートスペース、また、どのような価値や倫理、体験を促す空間が必要なのでしょうか。特に「ビジョナリー」な実践例を参照しながら、アート空間がいかに総合的であり、「生きた政治」の場であるかを考えていきます。
アートファンだけでなく、特にアート業界や美術館で働く方、建築やデザイン、コミュニティーづくりに関わる方にとって興味深い内容となっています。このシリーズで「崩壊の時代」と呼んでいる時代において、ラディカルなアート体験の見直しの必要性について考えます。
*本コースは、シリーズ1からの購入をおすすめしますが、シリーズの順番に関わらず、興味・関心のあるテーマからお申し込みいただけます。
レクチャータイトル
①洞窟壁画と流動的美術館
②エクスタシーをひらくアート
③集団的喜びの芸術空間
④「ドリームワールド」への扉:光と没入の技術
⑤トータルアートスペース
⑥宇宙移住と死者の復活:ロシアのコスミズム(宇宙主義)
インストラクター:ロジャー・マクドナルド(TASプログラム・ディレクター / フェンバーガーハウス館長)
レクチャー数:6 [ 各20 - 30分 ]
使用言語:日本語
洞窟壁画と流動的美術館
考古学者デヴィッド・ルイス=ウィリアムズによる、先駆的な洞窟壁画の説を紹介し、アートの誕生がいかに人間の変性意識体験と近い関係にあるかについて言及します。そして、幻覚体験で「見る」さまざまな幾何学模様など、普段の安定した意識が流動的になることで新たな知や世界にアクセスできるのではないか、というひとつのモデルを考えます。
さらに、ドゥルーズ/ガタリが提唱した「器官なき身体」の概念にも触れていきます。もし、「人間の拡張された意識」を美術館に反映するとしたら、果たしてどのようなアートスペースを創造できるのでしょうか。
時間: 36分42秒
エクスタシーをひらくアート
フランスの哲学者ジルベール・シモンドンやドゥルーズ/ガタリの考えを参照しながら、自己完結する「私」を、開かれた可能性で溢れた「私」にシフトするとどのようなアートが見えてくるのかに着目します。
また、古代ギリシャ哲学が、理想国家を脅かす開かれた肉体や規律に縛られない身体をいかに恐れ、その遺産が現代社会の中での文化規制など未だにさまざまな形で見られることにも触れていきます。特に、ダンスミュージックやレイヴをひとつの大きな参照点として紹介します。その中で、アメリカの思想家テレンス・マッケナの「アルカイック・リバイバル」の考えと、ニューヨーククラブカルチャーの立役者であるDJデヴィッド・マンキューソが主宰したパーティー「ロフト|The Loft」についても言及します。
時間: 31分47秒
集団的喜びの芸術空間
新自由主義や過剰な資本主義が、いかに共同体を抑圧してきたか、逆に、個の競争を生活の中心においてきたかについて言及します。17世紀オランダの哲学者スピノザの思想を参照しながら、人間の感覚や気持ちと、社会の中で起こす行動やアクションの関係性について話します。
人々の連帯感や「コレクティヴ」と、これからのアートを考え、集団的喜びを促す美術館とはどのような場所なのかを探ります。スペインにあるソフィア王妃芸術センター|Nacional Centro de Arte Reina Sofíaの先駆的な事例も紹介し、これからのアートの学びの空間について考察します。
時間: 28分47秒
「ドリームワールド」への扉:光と没入の技術
ウィリアム・バロウズとブライオン・ガイシンが発明した光の変性意識装置「ドリーム・マシーン」の歴史に始まり、アートと没入や瞑想的体験の関係を探ります。現代アート批評の懐疑的な視点にも触れ、「アテンション・エコノミー*」時代において、いま、改めて没入体験に重要な意味があるのではないかと考えます。
また、1920年代に行われていた幻覚模様の研究や現象、そしてカール・ユングの元型(アーキタイプ|archetype)についても言及します。
最後に、長野にあるフェンバーガーハウスで2014−2015年に行われた「フリッカーアートリサーチ」を紹介します。
*「アテンション・エコノミー」とは:人々の関心や注目の度合いが経済的価値を持つという概念
時間:34分50秒
トータルアートスペース
シャーマニズム研究者テレンス・マッケナの「アートの失敗」から出発し、アートを「コモンズ」として考えると、至上主義とは異なるもうひとつの芸術の地平線が見えてくるのかもしれません。ラディカル・ヒューマニズムの歴史が現代の実験的アートスペースとどう関係しているのでしょうか。
アーティストのタビタ・レゼールがアマゾンの森に立ち上げた集団的ヒーリングスペース「アマカバ|AMAKABA」、イギリスのアート団体グライズデール・アーツ(Grizedale Arts)や長野県にある多津衛民藝館のオルタナティヴな実践のほか、パーマカルチャー発案者の一人であるデビッド・ホルムグレンの中世修道院での「救命ボート」的コミュニティーの事例、そして「知識の方舟」の考え方についても紹介します。
時間:33分34秒
宇宙移住と死者の復活:ロシアのコスミズム(宇宙主義)
ソビエト時代に発展したコスミズム(宇宙主義)は壮大なヴィジョンを持った「復活」論でした。ロシアの独特な宗教的背景から始まり、宇宙主義の開祖ニコライ・フョードロフの『共同事業の哲学』を紹介します。
未来的な社会主義とそれを支える新たな美術館、そして輸血研究や宇宙コロニーに至る幅広い歴史に言及します。
また、ウクライナで1980年代に独特なコスミズムを展開したアーティストらによる「バイオテクノスフィア|Biotechnosphere*」にも言及し、20世紀のアートの実践で同様にコスミックなヴィジョンで作品を制作した人物も参照します。
*造語。人間の居住と移動のための多目的なモジュール。
時間: 26分08秒
インストラクター
ロジャー・マクドナルド
TASプログラム・ディレクター / フェンバーガーハウス館長
東京生まれ。幼少期からイギリスで教育を受ける。大学では国際政治学を専攻し、欧州平和大学(European University Center for Peace Studies)に留学。カンタベリー・ケント大学大学院(University of Kent)にて神秘宗教学(禅やサイケデリック文化研究)を専攻、博士課程では『アウトサイダー・アート』(1972年)の執筆者ロジャー・カーディナルに師事し近代美術史と神秘主義を学ぶ。1990年代後半、「神勝寺国際禅道場」(広島県)での禅修行やシャーマニズムの研究者テレンス・マッケナのワークショップ(ロンドン)に参加。1998年帰国後、インディペンデント・キュレーターとして活動。初めて手がけた企画は、山梨県清里にて、森の中に大きな穴を掘りアーティストたちの作品を埋めて、開催中に発掘する展覧会を開催。横浜トリエンナーレ2001」アシスタント・キュレーター、第一回「シンガポール・ビエンナーレ 2006」キュレーター、2017年にはアウトサイダーアートの大規模展「日本財団DIVERSITY IN THE ARTS 企画展ミュージアム・オブ・トゥギャザー」(スパイラルガーデン、東京)のキュレーションを担当するほか、2000年から2013年まで国内外の美術大学にて非常勤講師として教鞭をとる。2010年長野県佐久市に移住後、2014年に「フェンバーガーハウス」をオープン、館長を務める。2016年、観察実践集団「第3の鳥結社」の活動に参加、国際会議(アメリカ、ブラジル)に出席。2018年夏、カウンターカルチャーの聖地エサレン(Esalen、アメリカ西海岸)にてアーティストのアンナ・ハルプリンによるワークショップに参加。2018年から気候危機に関する研究を始める。2019年、望月地域にて市民運動グループ「MOACA」設立。気候危機や「適応」に関するレクチャーとディスカッションを開催。2021年UBIA「宇宙美術アカデミー」をスタート。ホールフードプラントベースの食事法を取り入れたカフェや量り売りショップ、スペースミュージッククラブほか「市民回復センター」を主催。AITでは、設立メンバーの一人として、現代アートの学校MADやTASのプログラムディレクションなどを担当。2022年に『DEEP LOOKING(ディープ・ルッキング)想像力を蘇らせる深い観察のガイド』を出版し、吉本ばなな氏、坂口恭平氏をはじめとする多くの表現者、読者、書店から大きな反響を得る。雑誌POPEYEによるPOPEYE Webでは2021年より「ラディカル・ローカリズム」を連載。美術手帖が運営するアートポータルサイトでは、気候危機とアートについての連載記事シリーズ「Art and Climate NOW」を掲載中。
サンプルレクチャー|Sample Lectures
サンプル Lecture 3 集団的喜びの芸術空間(3分04秒)
サンプル Lecture 4「ドリームワールド」への扉:光と没入の技術(2分53秒)