「芸術から眺めるこども、こころ、せかい
Art and Children, Mental Health and Experimental Learning」コース

Series 4. 生き方を育み合う美術館とアートの学び

本シリーズでは、これまでのレクチャーを振り返りながら、現在の国内外の美術館やアートの学びの場が、どのような人々と関わり、新たな機能や役割を模索しているのか近年の生きた事例をお話しします。全6回のレクチャーでは、初回のイントロダクションの後、2回目からは、ゲストにエデュケーターの佐藤麻衣子さんをお迎えします。佐藤さんが茨城県の水戸芸術館現代美術センターでエデュケーターとして教育プログラムに携わった際に実施した多様な人々との「対話型鑑賞」の事例を通してその役割を紹介します。

後半は、現在(2022年9月現在)オランダに滞在しリサーチを行った、ゴッホ美術館やボイマンス美術館などの事例を取り上げながら、オランダの主要な美術館で行われる「美術館に行ったことがない」、多様な文化背景を持つ若者を積極的にスタッフとして迎え入れる画期的なプログラムもご紹介します。最後は、佐藤さんと堀内による対話を通して、レクチャーでは紹介しきれなかった美術館やプロジェクトについても取り上げます。

近年、一部の美術館やアートスペースは作品の鑑賞に限らずアートの考えを活用しながら多様なコミュニティを柔らかくつなぐ学びのツールとして機能しています。本シリーズでは、dearMeの実践や国内外の美術館の多様な人々に向けたさまざまな事例を通して、「生き方を育み合う場」としてのアートを考えます。

 *本コースは、シリーズ1からの視聴をおすすめしますが、シリーズの順番に関わらず、興味・関心のあるテーマからお申し込みいただけます。

 

レクチャータイトル

生き方を交差させる場としての美術館
美術館の教育普及の概要と役割
③日本の美術館での実践:水戸芸術館現代美術センターの事例より
④オランダの美術館の教育普及プログラム
⑤対話が変える美術館の姿
⑥多様な生き方を映し出す芸術の体験とは?

 

インストラクター:堀内 奈穂子(AITキュレーター / dear Meディレクター)、ゲスト:佐藤 麻衣子(アートエデュケーター)
レクチャー数:6 [ 各20 - 30分程度 ]
使用言語:日本語

生き方を交差させる場としての美術館


これまでのシリーズでは、フレーベルやデューイなど、実験的な学びを確立した教育者が、芸術を学びの中心に据えながら、子どもたちが表現を通して自然との関係性や社会を想像し、精神を育むツールとなってきたことを紹介してきました。20世紀以降は、特に美術館やアートスペースなどでも鑑賞者に豊かな芸術の体験を提供する教育プログラムが発展してきます。

本シリーズでは、MoMAなど美術館での教育プログラムの歴史を簡単に振り返りながら、よりさまざまなコミュニティや文化背景、特性を持つ鑑賞者を迎え共に過ごすことが求められる近年において、美術館を人々の「ツール」として捉え、その機能を刷新するような特徴的な実践を紹介します。また、AITのdearMeが行う、さまざまな特性を持つ人々に向けたプログラムの事例にも触れて考えます。

 

時間:29分37秒

 美術館の教育普及の概要と役割

ゲストにアートエデュケーターの佐藤麻衣子さんをお迎えします。本レクチャーでは、佐藤さんが水戸芸術館現代美術センターで教育普及担当学芸員(=アートエデュケーター)として携わられた経験を元に、その役割や鑑賞者との関わりの基本理念を改めてお聞きします。


アートエデュケーターは、展覧会関連ワークショップの企画、子ども向け鑑賞ガイドの制作、美術館ボランティアの育成、学校見学の受け入れなどをしています。美術館が教育普及の学芸員を置く第一の理由は、そこがいつでも、誰でも、主体的に学べる社会教育の場所であるべきだからです。また、エデュケーターは展覧会を企画して来館者を待つだけではなく、美術館に来場しない人について考える想像力、地域や社会の課題・問題に目を向けるような仕掛けを考え、実現していく重要な役割を担っています。果たして美術館はどこまで多様性に向き合えるのでしょうか?社会と美術館をつなぐ教育普及の仕事から考察します。

時間:16分33秒

 日本の美術館での実践:水戸芸術館現代美術センターの事例より

佐藤さんが2021年まで勤務した水戸芸術館現代美術センターで企画・運営したプログラムの実例を紹介しながら、具体的な実践をもとに、教育普及の役割について理解を深めます。


紹介する事例
1.様々な対象に向けたプログラム(赤ちゃんと保護者/発達障害のある子どもと家族/学校)、2.市民ボランティアの育成、3.視覚障害者との鑑賞会


プログラムの目的は事例ごとに異なります。本レクチャーでは、こうした企画の出発点から、プログラムの様子、終了後のフィードバックまでを企画・運営に関わった経験から佐藤さんが伝えます。全体を見渡すことで、美術館が社会に果たす役割について、多角的に検証する視点を得ることを目標にしています。また、近年関心が高まりつつある「対話型鑑賞」についても取り上げます。解説パネルや音声ガイドを利用する鑑賞とは異なる方法を紹介します。

写真提供:いばふく(いばらき中央福祉専門学校)撮影協力:特別養護老人ホームもみじ館

時間:16分55秒

オランダの美術館の教育普及プログラム

④と⑤の2回にわたり、佐藤さんが2022年にオランダで調査した美術館の事例を紹介します。

オランダは多様な人種が集まる国であり、特にアムステルダムは18-30歳の若者の1/3以上が、二つ以上の文化背景を持つと言われています。これは、美術館の来場者層にどう反映されているのでしょうか?ゴッホ美術館の調査によると、このような人たちの多くはほとんど美術館を訪れることはないことがわかっています。インクルーシブな美術館を実現するため、次世代に向けてプログラムを行う美術館の事例を紹介します。


紹介するプログラム
1.ゴッホ美術館「ビールドブレーカーズ」(多文化のバックグラウンドを背景に持つ若者雇用プロジェクト)、2.ボイマンス美術館「クンスト/ヴェルク」(職業訓練校の生徒を対象にしたアーティストとの協働プログラム)

時間:13分22秒

対話が変える美術館の姿

ここでは、佐藤さんによるレクチャーの総括として、教育普及と展示が一体となったユニークな美術館の取り組みを紹介します。


オランダの南ホラント州・リッセという人口2万人ほどの小さな町にある美術館LAM。スーパーマーケットを運営する企業が母体となり、徹底的に教育普及に特化した活動を展開しています。掲げられたコンセプトは、作品についてどう思うかを鑑賞者自身で考え、自分の言葉で話すこと。そのため、運営は至ってシンプルです。美術館に当たり前に存在すると考えられている、モノや機能は削ぎ落とされています。例えば、アーティストや作品名を記したキャプションや説明パネルは、一切ありません。一方で、監視スタッフには鑑賞者と作品の前で会話する役割が求められます。
対話が中心になったとき、展覧会や美術館はどのような姿になるのでしょう。また、なぜそのような美術館が生まれたのか、その背景や、これからの美術館について考えます。

時間:17分14秒

多様な生き方を映し出す芸術の体験とは?

本シリーズ最終回では、ここまでのレクチャーを振り返りながら、佐藤さんと堀内による対話を通して、レクチャーで紹介しきれなかったオランダのファンアッベ美術館(Van Abbemuseum)のプログラムや、レクチャー1でも取り上げたミュージアム・オブ・ザ・マインド(Museum of Mind) のひとつ、ドルハウス美術館(Het Dolhuys)に訪れた佐藤さんの考察をお聞きします。また、これまでのシリーズでも取り上げた「アート処方」の観点でも、芸術の体験が個人の気づきや人々の関係性に及ぼす有用性について、オランダの事例を手がかりに考えていきます。

シリーズ全体を通して、芸術の体験は即時的な変化を生むものではなく、ゆっくりと生き方や考え方に浸透するからこそ、子どもや大人に限らず、あらゆる人々にとって主体的な気づきを生むツールになり得る可能性があることを紹介していきます。

時間:36分37秒

料金プラン・お申し込み

レクチャー数:6
参考文献リスト付き

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ゲスト

佐藤麻衣子(さとう まいこ)

アートエデュケーター


水戸芸術館現代美術センター 教育普及学芸員を経てフリーランス。
高校生の時に現代美術に出会い、作品やアーティストの考え方に救われた経験から、美術館に行ったことがない人や美術に苦手意識のある人も楽しめる、ワークショップや鑑賞プログラムの企画運営をしている。
令和3年度文化庁新進芸術家海外研修制度研修員。オランダの美術館で教育プログラムの調査研究を行う。
オランダで見えた暮らしや美術について、マガジンハウス・クリエイティブマガジン「こここ」で連載中
Photo by スズキアサコ

インストラクター

堀内 奈穂子

AITキュレーター / dear Meディレクター

 
エジンバラ・カレッジ・オブ・アート現代美術論修士課程修了。2008年より、AITにてレジデンス・プログラムや展覧会、シンポジウム、企業プログラムの企画に携わる。ドクメンタ12マガジンズ・プロジェクト「メトロノーム11号 何をなすべきか?東京」(2007)アシスタント・キュレーター、「Home Again」(原美術館、2012)アソシエイト・キュレーターを務める。国際交流基金主催による「Shuffling Space」展(タイ、2015) キュレーター、「Invisible Energy」(ST PAUL St Gallery、ニュージーランド、2015)共同キュレーター。アーカスプロジェクト (2013) 、パラダイスエア(2015、2016)、京都府アーティスト・イン・レジデンス事業「大京都in舞鶴」(2017)のゲストキュレーターを務める。 2016年より、AITの新たなプロジェクトとして、複雑な環境下にある子どもたちとアーティストをつなぐ「dear Me」プロジェクトを開始。アートや福祉の考えを通した講座やワークショップ、シンポジウムを企画する。

サンプルレクチャー|Sample Lectures

サンプル Lecture②美術館の教育普及の概要と役割(2分15秒)

 

サンプル Lecture⑥ 多様な生き方を映し出す芸術の体験とは?(2分31秒)